Core technology製品技術

1)短行程蒸留とは

真空蒸留技術は20世紀に入って高真空ポンプが発明されると、高真空蒸留技術として約110年前に開発が始められた。高真空下の分子流中では軽揮発分の蒸気分子の平均自由行程が長くなり、その長行程の間隔内に凝縮器を配置させれば、蒸気分子を100%凝縮分離できるという機能が注目された。それは常圧蒸留で生ずる「気液平衡状態」を回避できる理想的な蒸留法として脚光を浴びた。

その開発に並行して発表されたLangmuir-Knudsen真空蒸発速度式によれば、蒸発速度は蒸発圧力に比例するというものであった。

1943年にG.E.Utzingerは高真空でなく、中真空域で蒸留試験を行って、高真空蒸留と同様の蒸留を行えることを発表し、同時にその新蒸留技術を短行程蒸留(Kurzweg-destillation)と呼ぶことを提唱した。それが短行程蒸留の始まりであり、即ち、短行程蒸留の短行程とは長行程を否定するアンチテーゼである。

それ以降、分子蒸留を含む高真空蒸留技術は衰退し、高真空域で蒸発を行う必要がなくなったのである。凍結乾燥機も高真空ほど乾燥が早いと思われた時期があるが、真空蒸留と同じ原理で物質の移動量は圧力に比例するので、蒸気圧力が高い中真空領域での昇華の方が乾燥時間は短くなる。

2)短行程薄膜精密蒸留

図1:蒸発釜の総括伝熱

釜内に保有される感熱性物質の全液量を総括伝熱で加熱・蒸発する場合には、熱劣化加熱温度で加熱する場合が多い。

図2:真空薄膜蒸留の熱劣化がない加熱

壁面上の薄膜を加熱蒸発する場合には、垂直薄膜層なので、軽揮発分の蒸発に必要な低い温度および熱量のみを供給すればよい。
従って、短行程蒸留では熱劣化は生じない。その運転条件は机上では明らかにできず、蒸留試験によってのみ実証でき、設計のためのデータ採取が可能になり、プラントの性能保証が可能になる。短行程蒸留の設計では総括伝熱係数が用いられることがない。

図3:分子蒸留(MD)

MDの原理は分子流中における蒸気分子の長い平均自由行程を利用し、常圧蒸留のような蒸気分子同士の衝突は生じないことを特徴とする。
しかし、分子蒸留とは高真空下の分子流中における蒸気分子の凝縮分離プロセスで複数パスの再蒸留を要する非連続式蒸留法である。

図4:短行程蒸留(SPD)

 a) 熱劣化なしの加熱温度
 b) Schardt-Albers 蒸留圧力線(one pass)による蒸発・凝縮プロセス

短行程蒸留は蒸発が1段ワンパスで終了するので残渣中のモル分率は限りなくゼロに近付く。この精密な蒸留法を短行程薄膜精密蒸留と呼ぶことができる。
高真空の分子蒸留に比べて、短行程蒸留法は中真空の遷移流中での短い平均自由行程に基づくもので、蒸発速度は圧力に比例するので圧力の桁数だけ増加できる革新的発明ということができる。

図5:垂直蒸発室内におけるSchardt-Albersの蒸発圧力線

UIC社Dr. S. Schardtは2006年に蒸発室内の圧力について研究を行い、短行程蒸留は蒸発壁の下端にて一段ワンプロセスで連続的に蒸発が終了することを明らかにした。

蒸気は水平一方向流として内部コンデンサーで瞬時に凝縮され、蒸気圧力は消去される。蒸発圧力は1点ではなく、蒸発壁の上端から下端に沿ってリニアに逓減し、次々に消去される。凝縮液は留分として分離され、系外へ排出される。
フィード液中のモル分率は連続蒸発による精密蒸留として蒸発壁下端でゼロに限りなく近付く。

蒸発圧力Pとは蒸気分圧pvaporと空気分圧pairの和である。
蒸気は全て消去されるので、蒸発缶出口では残留ガスは空気分圧のみとなる。
しかし、空気分圧 > 蒸気分圧の場合には製品分離性能が低下する。
従って、空気分圧 < 蒸気分圧の運転条件が必須ある。

このように真空蒸留の圧力制御は基本的に所定の空気分圧を制御することが正しく、精密蒸留を行うことが可能になる。

図6:Schardt-Albers蒸発圧力線と特許洗浄式コンデンサーの概要

二成分混合液の蒸気圧はラウールの法則によれば、揮発性成分の蒸気圧pは下記の式で表される。

 P = p0x
 p0: 純粋な軽揮発分の蒸気圧
 x : 溶液中のモル分率

また、揮発性成分の蒸気圧は温度Tとモル分率xの関数である。

 P = f(T, x)

但し、xはフィード液中の濃度による。その濃度は蒸発壁上の蒸発により減少する。
また、蒸発温度は留分カット率或いは残渣濃度に基づいて決まる。
従って、蒸発缶内の蒸発圧分布およびモル分率はfig 1.のように蒸発壁面に沿って逓減する。
蒸留とはこのような蒸気圧の低下との関係で下記のような意味を持つ。

蒸発壁上の蒸気圧 PEV、凝縮面上の蒸気圧 pCとすると、
 pEV > pC : 蒸留進行中
 pEV = pC : 蒸留終了点
 pEV < pC : 蒸気の蒸発壁への逆流 (残渣中の軽揮発分含有量の増加)

Fig 2 は内部コンデンサー上の蒸気圧が上昇して、例えばS点にて平衡状態
pEV = pC のに達すると、圧力差間の駆動力がなくなり、pEV - pC = 0となり、蒸留は行われなくなる。また、蒸発壁の下端にてpEV > pCでは蒸発が終了せず、薄膜液中のモル分率はゼロに達していないことを意味する。

Fig 3はpEV > pC が続行され、蒸発壁の下端にて蒸発圧力が蒸発終了圧力pRに達すると、薄膜中の軽揮発分のモル分率はゼロに近づくことを意味する。

内部コンデンサーでの凝縮液の濃度が上がると、凝縮圧力pCが高くなりpEV < pC の状態になるケースがある。そのような場合には洗浄式コンデンサー方式により凝縮液に希釈剤を加えることにより、蒸留問題を解決ができる。
(例:残留性有機汚染物質の除去)

Stefan Schardt, UIC News/Dec. 2006抜粋

図7:短行程蒸留缶の模式図 坂本昌夫の蒸発率近似値曲線

短行程蒸留缶の垂直加熱壁面に沿って流下する薄膜からの蒸発率を坂本昌夫は近似値として確率密度関数式を用いて蒸発率曲線を表した。
蒸発壁面上の蒸発速度は等速ではなく、薄膜が流下するに従って液相中の軽揮発分含有量は逓減し、同時に蒸発率も逓減し、やがて蒸発壁面の下端では液相中の軽揮発分含有量は皆無に近づき、蒸留プロセスが終了する。
蒸留プロセスの終了点では、微少蒸気量は凝縮され、蒸気圧は消去され、空気分圧のみが残留して排気され、精密蒸留が終了する。